移住先を選ぶために現地を訪れたとき、不動産物件以外にもいろいろチェックしておきたいポイントがある。
生活環境、交通、医療施設、学校などなど。
あと移動中簡単に観察できるものがある。
周辺の家々の造り、とりわけわかりやすいのが屋根だ。
屋根の形状を見ればその土地の気象条件がある程度わかる。
片流れで大きな傾斜が付いている屋根は、一帯が雪深いことを示す。
なるべく屋根の上で雪を融かし、そのまま庭の上に雪を落としてしまおうというわけだ。
妻入り、平入りという言葉を聞いたことはないだろうか。
軒先側に玄関があれば平入り、玄関側から見て両端に軒先が見えるのは妻入りだ。
妻入りは雪の多い地域でよく見られる。
家を平入りで建ててしまうと屋根から落ちてきた雪で玄関がふさがれ、外に出られなくなる危険があるからだ。
また、気象対策は屋根の光り具合にも見ることができる。
日本海側の地域に行くと、驚くほどギラギラしている屋根瓦に出合うことがある。
石州瓦といわれるもので島根県石見地方を発祥地とし、雪や寒さに強いという特徴をもつ。
瓦を釉にドボンと漬け、1300度にもなる高温で焼く。
すると瓦の粒子が高密度で結着し、耐久性、耐水性が増すのだ。
瓦がギラギラしているのは、釉がしっかり付いている証拠でもあり、極めて頑丈なことの証でもある。
石州瓦の特徴はオレンジがかった赤色。釉のベンガラが高温で溶けて生まれる色調だ。
鮮やかに映える家々の屋根が連なる風景。それはそれは美しい。
関西方面から移動して石川県に入るとこの屋根が増え、「来たな」という実感がわく。
加賀から能登に行くと光沢はそのままに赤が黒に変わる。こちらの能登瓦はマンガンを主とした釉を使っているそう。
黒は光の吸収率がよいため、より効率的に雪を融かすことができて家の中も暖まる。寒冷地の知恵だ。
また、これらの瓦は釉を多めに使うため、価格もそれなりに高い。
つまり瓦がギラギラしている地域は比較的裕福であるともいえる。
屋根は気象条件だけでなく、時には経済的な背景も教えてくれるありがたいサインなのだ。