過去の観測記録から予想できないレベルの豪雨がたびたび起こっている。
河川の氾濫と並び、下水道から水があふれる事故、内水氾濫も関心の的だ。
短時間で大量の雨水が下水道管に流れ込み、管内の気圧が急激に上がってマンホールのふたを吹き飛ばしてしまう「エアーハンマー現象」が繰り返し報道されたことは記憶に新しい。

さて、取引対象物件の重要事項説明時、不動産業者は物件と水害の関連性に何らかの形で言及しなくてはならない。一般的に水害の危険性がある場所を記した地図、いわゆるハザードマップを見せながら説明される。
水害のハザードマップには次の3種類がある。
・洪水ハザードマップ
・雨水出水(内水)ハザードマップ
・高潮ハザードマップ

重要事項説明書では下記のような欄で物件と水害の関連性が示される。

これを見てあなたはどう思うだろう。
洪水や高潮には注意が必要だけれど、内水氾濫については問題なさそうだ、と受け止めるかもしれない。
ただ、それは早合点だ。
この欄の上には「水防法施行規則の規定により市町村の長が提供する図面」とある。
つまり「水防法に基づかないハザードマップ」が他に存在するかもしれないのだ。

重要事項説明書で「有」とされる、水防法に基づくハザードマップにはいくつか条件がある。
洪水ハザードマップを例にみていこう。

【1】対象となる河川
国土交通大臣や都道府県知事が指定する次の河川流域が対象となる。
・洪水予報河川…水位等の予測が技術的に可能な流域面積が大きい河川
・水位周知河川…流域面積が小さく洪水予報を行う時間的余裕がない河川
・特定都市河川…同一水系における1または2以上の一級河川について指定された河川
・その他一部の一級河川および二級河川…洪水による災害の発生を警戒すべきものとして国土交通省令で定める基準に該当する河川

【2】浸水想定区域の指定
国土交通大臣や都道府県知事が【1】の河川について、
・洪水時の円滑迅速な避難を確保する
・浸水を防止して水災被害を軽減する
ことを目的とし、想定最大規模の降雨により該当河川が氾濫したときの洪水浸水想定区域を指定していることが前提。
想定区域に指定すべき内容は次のとおり。

  • 区域の範囲
  • 浸水時に想定される水深
  • 浸水時に想定される浸水の継続時間(長時間浸水のおそれがある場合に限る)

これらを指定した想定区域が公表され、市町村長に通知されている必要がある。

【3】マップの記載内容
【2】の区域に該当する市町村の長がハザードマップに下記事項を記載し配布する。

  1. 洪水予報等の伝達方法
  2. 避難施設、避難場所、
  3. 避難訓練の実施に関すること
  4. 特定の地下街、要配慮者利用施設、大規模工場等の所在地、名称
  5. その他洪水時等の円滑で迅速な避難確保のため必要な事項

こうして生まれた地域住民等に周知させるための印刷物やホームページ上のハザードマップ。これがすなわち「水防法に基づくハザードマップ」だ。

話を重要事項説明書の記載に戻そう。
市町村で公開しているハザードマップが上記【1】~【3】の条件を満たしていれば「有」、満たしていなければ「無」にチェックが入る。
ただ、「無」だからといって真にハザードマップが存在しないというわけではない。
すでに書いたとおり「水防法に基づかない」マップがありうるのだ。その例は下記のとおり。

  • 形式的な記載内容を満たしていても、市町村内に【1】の河川が流れていない。
  • 過去の浸水被害に基づいて作られているが、大臣や知事による浸水想定区域が未指定。
  • 避難施設、避難場所が記載されていない。

必要な手続きこそ経ていないものの、精度の高いハザードマップが存在するかもしれない。
この種のマップがある以上、その他の特記事項欄などで何らかの説明がなされるべきだ。
ハザードマップが「無」のときは補足内容がないか注意して見ておこう。

なお繰り返しになるが、「有」というのは、水防法に基づくハザードマップが存在する、という意味だ。物件が浸水区域内にあるという意味ではない。
有無欄の下、「水害ハザードマップにおける宅地建物の所在地」の欄を確認しよう。
対象物件が区域に含まれているかどうかはここで初めてわかる。
重要事項説明書のハザードマップに関する表記はなかなか複雑。心してかかりたい。

おすすめの記事