東京都はこの夏4カ月間、一般家庭向けの水道基本料金を無償にすると発表した。
暑さと物価が上昇を続けるなか、光熱費を補助することでエアコンなどを積極的に使用してもらい、熱中症予防を進めようという考えだ。

実際、近年は5月でも真夏日という日は珍しくなくなった。
そんな気候変動を背景に、避暑や移住の地として、少し前から千葉県勝浦市が注目を集めている。
一年の最高気温が35℃に満たない、つまり猛暑日になることがないのだ。それも、気象庁が統計を取り始めてから100年以上もの間ずっとなのだから驚く。
勝浦が涼しいことの大きな理由は、海風が冷たいことだ。勝浦沖の海はたいへん深い。日の当たらない下層の冷たい水が循環して上がったところに南風が吹き込み、陸地を冷ましてくれるのだ。

さて、ここまで読んであなたはこう思うかもしれない。
いくら温暖化が進んでいるとはいえ、勝浦のような気象条件の場所は案外珍しくないのではないか。さほど特別視する話ではないだろう、と。

そこで今回は、通年定住で快適に過ごせるという観点から、勝浦市と同じ以下の3条件を満たす「暑すぎず寒すぎない」市町村を日本国内、北から南まで調べてみた。1.は2024年から過去の10年間、2.と3.は2020年から統計で遡れる範囲の数字だ。

  1. 年間最高気温が35℃に満たない(猛暑日がない)。
  2. すべての月で過去の最高気温の平均が30℃に満たない。
  3. すべての月で過去の平均気温が0℃以上である。

するとどうだろう。たった3つの条件だが、全部該当する場所として見つけられたのは以下の4か所だけだった(カッコ内は気象庁観測地点名)。

1.愛媛県伊方町(瀬戸
愛媛県西部、三方を海に囲まれた佐多岬半島全域にあたる。
温暖な海洋性気候で、年間平均気温は約16℃。真冬でも月の平均気温が6℃前後だ。
今回調査した地点のうち、最も気象条件が勝浦に近いと思われる。
高い山がなく風通しがよいので、風力発電が盛ん。四国唯一の原子力発電所、伊方発電所もある。
移住促進に力を入れており、第3子以降の児童を養育する人には総額100万円相当が支給される。
また、住宅新築費用の10分の1(上限200万円)や既存建物除去費用の2分の1(上限100万円)などが、定住促進奨励金として交付される。

2.高知県室戸市(室戸岬
高知県南東部、太平洋に突き出た室戸岬の周辺エリア。
愛媛県伊方町と同様、気温の季節による変化や日較差が小さい。年間平均気温も同じく16℃台だ。
ブリやキンメダイ、トコブシといった海鮮に加え、サツマイモの一種である西山きんとき、ナス、ビワなどの農産物に恵まれる。また、外から来た人をおおらかに迎える文化がある。
市内で婚姻届を提出した世帯には一定の条件のもと最大60万円の補助金が支給される。
また、45歳までに就農予定の人が市内で農業研修を受ける際、最長2年間、年間150万円の就農準備資金が給付される。

3.兵庫県香美町(兎和野高原
兎和野は「うわの」と読む。同町のなかでも内陸部最南端のエリアに位置する。
兵庫県観光百選の1位に選ばれた「瀞川平」に広がる高原で、標高は540~650mほど。
キャンプ場やスキー場があり、通年で自然体験が楽しめる。
兎和野高原そのものは公園なので移住候補地に当たらないが、近隣のハチ北高原などで移住の例がある。
同町内で住宅を取得して住みはじめると、新築住宅の場合に最大30万円分、中古住宅で最大10万円分の住宅取得奨励金 (商品券)が支給される。移住者であれば、移住支援加算として世帯員1名ごとに5万円(中学生以下10万円)、最大50万円まで追加交付される。

4.静岡県南伊豆町(石廊崎
伊豆を代表する景勝地のひとつ、石廊崎を中心とするエリア。
7月、8月の歴代最高気温日の平均が29℃に届かない。日本の渚百選に選ばれた弓ヶ浜海水浴場、透明度の高いヒリゾ浜、静かな入り江の子浦海水浴場など、個性豊かな海水浴場が揃う。
一定の条件のもと、出産祝金として第1子のとき15万円、第2子のとき20万円、第3子以降では25万円が支給される。
また、30日までの短期、1年間までの中期、5年間までの長期の3タイプで、各種補助付きのお試し移住が体験できる。

もうおわかりだと思うが、今や37℃、38℃の猛暑日はどの地域でも珍しいことではない。通年快適な避暑地を数字だけで選び抜くと、ほぼ岬しか残らないのだ。
なお、1か所惜しかったのが、2023年に35.1℃の猛暑日を記録したこと以外、すべてクリアしていた青森県深浦町だ。1、2月の降水量は勝浦市より少ないくらいで、雪はさほど気にならない。

気象庁のホームページには、驚くべき数の気象データが集積されている。
思わぬ発見があるので、時間のあるとき眺めてみることをおすすめする。

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