前回の続きで農地売買のお話。
ある人から農地を買ったとしても、農作業をする予定がなければ権利は移転せず「仮登記」のまま、という内容だった。
農地を売り買いするときは、買主が購入後すぐ、もしくは近い将来農地法の許可を得られる前提が必要だ。
仮登記の状態だと以下のような問題がついてまわる。
問題点1.土地が使えない
土地の所有権は元の所有者に残ったまま。
ここで買主が野菜を作ったり、芝生を育てたりすると、違法耕作、違法転用とみなされてしまう。
そのため自分の土地のように使うことができないという致命的なデメリットがある。
問題点2.罰金がありうる
過去、間違った手続きで農地が使われ、荒廃につながった事例が多かった。
そのため行政は、農地に係る不穏な動きに対し、監視の目をゆるめない。
仮登記のまま土地を使うと行政指導が入る恐れがあり、注意が必要だ。
それだけではない。違法耕作、違法転用は農地法違反であり、罰金をとられる可能性もある。
問題点3.タイムリミットは10年
農地の仮登記を本登記にするためには、売主買主が共同で申請する必要がある。
買主は売主に対し「許可申請協力請求権」をもっているが、この権利は10年で時効消滅するのだ。
売主が時効を援用し、許可申請への協力を拒めば、たちまち農地法の許可は得られなくなり、本登記を得る望みが絶たれてしまう。
では、こうした問題を回避するにはどうしたらいいのだろう。
主な解決策は下記のとおり。
解決策1.農業に従事する
最重要ポイント。
今は仮登記であったとしても、本登記に切り替えるための動きを止めないということ。
そのためには農作業の実績がある、もしくは農作業を続ける準備ができていることを行政に認めてもらわなくてはならない。
農地を本登記で取得するための条件(農地法第3条による主な許可基準)は、下記のとおりだ。
要件 | 許可基準 | 許可が認められない場合とその具体例 |
全部効率要件 | すべての農地(権利を有する農地と許可申請する農地)を効率的に耕作すること | すべての農地を効率的に耕作していない場合 ・機械(所有、リースを含む)、労働力(雇用者を含む)、技術(雇用者や委託先を含む)が十分に確保されていない ・すぐに耕作しないが、将来退職したら農業を行うため農地を確保しておきたい ・耕作の具体的内容が明らかでない ・昨年、農業経営の規模縮小のため農地を手放した ・所有している農地の大半が遊休農地になっている ・効率的に利用できないほど遠くに住んでいる など |
農作業常時従事要件 | 農地の取得者またはその世帯員等が農作業に常時従事すること(原則、年間150日以上) | 取得者またはその世帯員等の年間耕作日数が150日に満たない場合 ・自ら耕作できないため、地元の農家に任せている など |
地域調和要件 | 周辺地域の農地の集団化、農作業の効率化、農地の効率的・総合的な利用に支障が生じないこと | 周辺地域の農地利用に支障が生じるおそれがあると認められる場合 ・地域の農業者が協力して水利調整している地域で、水の流れを分断するような営農を行う ・減農薬栽培が行われている地域で、農薬を使用し、周辺地域の農業者の営農が困難になるおそれがある ・地域の決め事を守らない ・地域の水準よりも極端に高い借賃で農地を借り受け、地域の一般的な借賃を著しく引き上げる など |
なお、従来は農地譲り受けの条件に耕作地の下限面積要件が含まれていたが、令和5年4月1日施行の農地法の一部改正により撤廃された。
この改正には、面積の大小にかかわらず、やる気のある新規就農者を積極的に迎え入れ、農地利用を促進させようというねらいがある。
ただし、農地を借りる際は、農業委員会を通すこと。個人間での貸し借り、いわゆる「ヤミ貸し」はトラブルのもとだ。
解決策2.売買契約書に特約を付ける
仮登記は売主の所有権を強くしばるものではないので、いわば買主が不利な状況だ。
売買契約に際し、下記のような特約を付けておこう。
・買主への所有権移転の条件が整った場合、売主は無条件でその手続きに必要な一切の行為(署名・押印等)を行う。
・買主の売主に対する「許可申請協力請求権」を無期限とする(時効を設けない)。
・この請求権は売主買主の権利の承継者に引き継ぐものとする。
また、仮登記の期間中、買主が固定資産税を負担するケースが多い。
その点も話し合って、特約条項で明らかにしておこう。
農地の購入を検討する際、まずは地元の農業委員会を訪ねてみるといい。
その場合はあの日不動産が手助けしますのでご相談ください。