冬眠前の時期はもちろんのこと、夏場を迎えても連日当たり前のようにクマ被害のニュースが流れるようになった。
人間にとって非常に痛ましい事案である一方、クマの生活環境が変動したことの帰結ともいえる。
ニュースと並行してクマから身を守る方法が伝えられ、折に触れて見ていると結構な情報量になる。
どれを信じていいのか迷ってしまうが、とにかく間違いなさそうなのは以下の方法だ。
クマを見つけたとき、決して走って逃げてはいけない。
クマの目を見つめたまま目をそらさず、ゆっくり後ろへ下がる。
クマの姿が見えなくなるまでゆっくり下がる動きを止めない。
いっぽう至近距離で襲われそうになったとき、体の守り方については諸説あるようだ。
首と頭を両手で抱えてうつぶせになるところまでは同じだが、ダンゴムシのように体を丸めるという説、はたまた足をやや開き気味にまっすぐ伸ばして寝そべるという説もある。
ダンゴムシ説には体の表面積を狭くしてダメージを下げる意図があり、寝そべり説は体を安定させてクマに体をひっくり返されないことに重点を置いている。
あくまで想像だが、クマと至近で出くわした人の多くが重傷もしくは死亡に至っていて、帰還の成功例は統計がとれるほど多くないのかもしれない。そのため王道といえる防御方法が生まれていないのではないか。
その意味では鉢合わせのリスクをいかにつぶすかが最大の防御といえる。
これまでのクマ被害事例を俯瞰すると、次のようなポイントが見えてきた。
1.通行制限されている場所に近寄らない
山間部へ行くと一般人の進入が禁止され、狩猟者などごく一部の人しか入れないような場所がある。
めったに人が立ち入らない区域は野生動物の天下である可能性が高く、彼らが自由に動き回っていれば至近で遭遇する確率も高まる。登山道のなかでも人が少ないルートは避けた方がいい。
クマによる被害が確認されたため、入山禁止となっている山域もある。注意書きの看板には素直に従い、自重しよう。
2.むやみに山菜取りに行かない
こんなことを書くと山菜好きの人から叱られそうだが、登山客よりも山菜採取客の方がクマに襲われる率が高いようだ。登山客にはクマ除けの鈴を付けている人が多く、クマの接近を未然に防いでいる。いっぽうで山菜採取客はあまり鈴を付けていないうえ、山菜取りに熱中するあまり人気のないエリアへどんどん入り込んでしまうらしい。
山菜はなるべく道の駅で買うようにしたい。
3.ひとりで行動しない
観光ルート化している登山道は別として、人通りが少ない場所へ分け入るときはなるべくひとりで行かないこと。複数で行動する方が会話の声や人の気配でクマを遠ざけやすいし、危険察知の確率も上がる。通報での助命もできる。安全を期すためチームで動くようにしよう。
4.巣穴や洞穴のような場所を安易に覗かない
山仕事に慣れている人でもうっかり巣穴をうかがってクマと目が合ってしまい、飛び出してきたクマに襲われたという例がある。冬眠中とされる時期でも油断は禁物。動物の体が入りそうな大きな穴には近寄らないようにしたい。
5.地元の人から予備知識を聞き出す
クマ被害のなかには、遠方からひょっこりやってきた人が不運な目にあうというパターンも多い。
例えば北海道でサケやマスが川を遡上する時期、地元の人は軽々しく川に近づかない。クマが魚を捕りに来るからだ。そこへのんきな密漁客がよそから現れ、闇夜の川でクマに襲われる。
地元の人だけが知っている文字どおりのライフハック、安全対策が存在する。
慣れない大自然の地へ向かうときは、地元情報を集めよう。
いかがだろうか。
安全に絶対はないけれど、リスクを少しでも下げることは可能だ。
危険を冒さなくても自然の恵みにふれることはできるし「無理しない」「油断しない」を常に心がけたい。
初夏はクマの繁殖期にあたり、子グマを守ろうとする母グマは外敵に対して攻撃的かつ神経質になる。
最低限まずはクマ鈴を買いに行くところから始めよう。
❖参考図書:『日本クマ事件簿』(三才ブックス)