今回寄せられた質問のキーワードは「停止条件」「解除条件」。
似た名前の法律用語が意味するところは真反対で、運命の分水嶺ともいえ……

Q:希望の中古住宅が見つかり、住宅ローン利用を条件に売買契約を書面で結びました。契約時には売主さんへ手付金、不動産業者には媒介手数料の半分を支払いました。
ところがその後、残念ながらローン審査に落ちてしまい、住宅を買うことができなくなりました。
ここで問題発生。手付金は戻ってきたのですが、媒介手数料が戻ってきません。不動産業者いわく
「ローン不承認となった時点までは媒介契約が有効なので、その分の手数料として頂いています」
とのこと。
目的の中古住宅が購入できていないにもかかわらず、手数料を支払うことに納得がいきません。果たして媒介手数料を取り戻すことはできるのでしょうか。

A:時々耳にするお話です。どうすればいいのか不安になりますね。
媒介手数料を支払うには根拠が必要です。
そのためには、
①手数料授受のタイミングで売買契約と媒介契約が有効に成立していたのか。
②ローン不承認を理由に売買契約が解除されたとき、媒介契約上手数料が返還される取り決めがあるのか。

の2点がポイントとなります。

まず①から見ていきます。
今回の売買契約は住宅ローンの審査通過という不確定要素が効果発生の要件となっています。
この場合の契約には2種類の形態が考えられます。

(1)停止条件付売買契約
特定の条件が成就したときに法律効果を発生させる契約です。
条件成就までは効果発生が「停止」しているため、このように呼ばれます。
停止条件の例を見てみます。
例えばお店が「阪神タイガースが優勝すれば優勝記念セールを行います」と宣言したとします。
この場合「阪神タイガースの優勝」が停止条件です。
優勝が実現して初めて記念セールが始まります。優勝しなければ永遠にセールが始まりません。
売買契約でも同様に「ローン審査通過」が停止条件となっていれば、通過して初めて契約の効果が発生します。
つまり停止条件付売買契約の場合、効果が発生していません。

(2)解除条件付売買契約
特定の条件が成就したときに法律効果を消滅させる契約です。
条件成就と同時に法律効果が「解除」されるため、この名で呼ばれます。
同様に解除条件の例を見てみましょう。
例えばお店が「セントラル・リーグ公式戦終了まで阪神タイガース応援セールを行います」と宣言したとします。
この場合「セントラル・リーグ公式戦終了」が解除条件です。
公式戦が開催されているかぎりセールは続きます。公式戦終了とともにセールも終わります。
売買契約の効果は締結とともに発生しますが、「ローン審査不承認」が解除条件となっていれば、審査に落ちた段階で契約が終了します。
つまり解除条件付売買契約の場合、効果は当初から発生しています。

さて、あなたの不動産売買契約は上記(1)(2)のうちどちらでしょうか。
仮に下記のような文言が書かれていれば(2)にあたります。
ローンの不承認が解除条件となっています。

(融資利用の場合)
第19条 買主は、この契約の締結後すみやかに、標記の融資の申込手続きをしなければならない。

2 標記の融資未承認の場合の契約解除期限までに前項の融資の全部又は一部について承認を得られないとき、又、金融機関の審査中に同契約解除期限が経過した場合には、この契約は自動的に解除となる。

3 前項によってこの契約が解除された場合、売主は、受領済の金員を無利息で遅滞なく買主に返還しなければならない。

4 買主が第1項の融資の申込手続きを行わず、又は故意に融資の承認を妨げた場合は、第2項の規定は適用されないものとする。

売主さんがあなたに手付金を返還したのは、ローン不承認によって売買契約が自動的に解除されたからだといえます。
言い換えれば、ローン不承認の段階までは売買契約が生きており、不動産業者が媒介手数料を受け取る根拠があります。

不動産業者との媒介契約書に目を移してみましょう。
下記のような表現があるかもしれません。

(報酬の請求)
第10条 乙(不動産業者)の媒介によって目的物件の売買又は交換の契約が成立したときは、乙は、甲(買主)に対して、報酬を請求することができます。ただし、売買又は交換の契約が停止条件付契約として成立したときは、乙は、その条件が成就した場合にのみ報酬を請求することができます。

(報酬の受領の時期)
第11条 乙は、宅地建物取引業法第37条に定める書面を作成し、これを成立した契約の当事者に交付した後でなければ、前条第1項の報酬を受領することができません。

今回の売買契約は書面により(2)の解除条件付で成立しているため、上記第10条の前半および第11条を根拠に不動産業者はあなたに報酬を請求できます。
このままあきらめるしかないのでしょうか。
いいえ、最後のチャンスがあります。それがポイントの②です。
媒介契約書のどこかに次のような文言はないでしょうか。

目的物件の売買又は交換の契約が、代金又は交換差金についての融資の不成立を解除条件として締結された後、融資の不成立が確定した場合、又は融資が不成立のときは甲が契約を解除できるものとして締結された後、融資の不成立が確定し、これを理由として甲が契約を解除した場合は、乙は、甲に、受領した約定報酬の全額を遅滞なく返還しなければなりません。

まとめると「解除条件付売買契約で融資不成立が確定し、買主が売買契約を解除した場合、不動産業者は受け取った媒介手数料全額を買主に返還する必要がある」ということになります。

この最後の文言は非常に大切です。
媒介手数料が戻るかどうかの生命線です。
ぜひ媒介契約書を読みなおして確認してください。

なお、あの日不動産では、物件引渡し時に初めて媒介手数料を頂くので、上記のようなトラブルが起こりません。
安心してご相談ください。

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