
今回のテーマはホームインスペクション。
ホームインスペクションとは、建築の専門知識をもった調査員が対象建物の劣化具合、問題点、緊急性の大小などを指摘してレポートにまとめ、今後の対策、修繕の必要性を提示してくれるサービスだ。
住宅を売るとき、買うとき、取引の関係者が建物の状態を適切に把握し、円滑に物件引渡しを完了させる目的で行われる。多くの場合、買主が自主的に行う。
調査ポイントの具体例は以下のとおり。
- 構造上の著しい不具合。床の傾き、基礎のひび割れ、屋根や柱の腐食など。
- 雨漏り、水漏れの発生。または発生可能性が高い箇所。
- 腐朽、蟻害、蟻道、著しい虫害。
- 設備配管の不具合。
- その他(小屋裏、天井、外壁、内壁、床下、バルコニーなど)
費用は買主負担が基本。調査費は、目視で確認できる範囲であれば5~7万円、屋根裏や床下などを含め詳細に調査する場合は10~12万円かかるとされる。
なお、売主所有の建物に立ち入って行うため、売主の同意は必須だ。
費用はかかるが当然得るものは大きい。どんなメリットがあるかみていこう。
【メリット】
1.修繕すべき箇所がわかる
最大の目的にして最大のメリット。建物の専門家でなければ、パッと見ただけでどこをどれくらい直した方がいいのかわからないものだ。中立な立場のプロに見てもらうことで、客観的に問題箇所、修繕の優先順位を知ることができる。
2.資金計画を組みやすくなる
修繕の優先順位に応じて工事業者から見積もりをとれば、必要なリフォーム経費もわかる。これによって資金計画が組みやすくなる。リフォームローンの活用も考えられるし、購入時の価格交渉に役立てることもできる。
3.取引のトラブルを未然に防ぐ
売主側がホームインスペクションを行うこともある。経年劣化、不具合の箇所をリストアップしておけば、先回りして買主に説明することができる。買主の心理的負担をなくし、取引のハードルを下げることにつながる。
いっぽうでデメリットにはどんな点があるだろう。
【デメリット】
1.価格交渉の材料に使われる
売主からみたデメリットだ。中古住宅ならどこかしら不備があるのは当たり前だし、不具合を直しながら住みつづけるのはごくありふれたこと。ところが調査が粗探しのようになると、売主買主間で希望価格のギャップが生まれかねない。
2.取引が成立しづらくなる
専門家の指摘箇所が多岐にわたると、買う側は購入意欲をなくすし、売る側は萎縮してしまうだろう。長年空き家状態で今の住み心地がわからない、オーナーがしょっちゅう変わっているなどの場合、予想以上に問題が見つかり、売り物にならなくなることがある。
3.他の顧客に商談を取られる
買主側からみたデメリットだ。調査結果にこだわって価格交渉に注力すると、売主が他の顧客を優先するかもしれない。中古住宅なら軽微な劣化には目をつぶり、新築より価格面でお得くらいに考えないと商談そのものが飛んでしまう。
いかがだろう。
ホームインスペクションはあくまで現状を把握するための手段。商談相手を圧迫するための調査ではない。今の建物の価値を維持する、さらに高めるという建設的な考えのもと使うようにしたい。
なお、似たような名前のものに建物状況調査(インスペクション)がある。
こちらは宅地建物取引業法に定められた中古住宅向け調査だ。
2018年4月の宅建業法改正以降、不動産売買の仲介業者は売主と買主に対し、建物状況調査に関して説明する義務がある。調査あっせんの有無、調査実績の有無、実施していればその内容だ。
ホームインスペクションと同じく、調査自体をやるやらないは任意。
主な相違点は下記のとおりだ。
●建物状況調査は構造耐力上主要な部分、雨水の侵入を防止する部分に限定して行われる。ホームインスペクションは依頼者の希望に準じた範囲で行われる。
●建物状況調査は中古住宅のみ。ホームインスペクションは新築、中古を問わない。
●建物状況調査の法的根拠は宅地建物取引業法。ホームインスペクションは民間の調査基準による。