私が山梨県北杜市に住み始めたのは2011年の2月だった。
まだ地方創生という言葉も世に浸透していない時期だ。
地方での暮らしに興味をもったのは、前職での経験が大きな要因だった。紙媒体を通じて日本各地の魅力を伝える仕事をしていたのだが、地域を知れば知るほど「これからは旅するだけではなく、地方に根を下ろしてその良さを実感するのが当たり前になるはずだ」と直感した。と同時にまずは自分がそんな環境に身を置きたい、という気持ちが強くなった。
まず農的な暮らしに憧れ、休みの日に農家のお手伝いをしたり、実践者に話を聞いたりした。ところが、元手も経験もなく、いきなり農業で生計を立てようとするのはリスクがあると考え、即方向転換した。
では自分に何ができるだろう。いろいろ情報を集めながら、試行錯誤を繰り返し、最終的に落ち着いたのが地方移住を支援する不動産仲介の仕事だった。
土地建物を扱う仕事は全く初めてであり、右も左もわからないという表現がぴったり当てはまるなかでのスタートだった。
それでも続けられたのは、仕事で接するお客さんが自分と同じく「田舎の良さを体感しながら人間らしい暮らしをしたい」という思いをもっていたからだと思う。お客さんの気持ちに共感できて、その夢を一緒に叶える喜びがある。そういう仕事は多いようで少ない気がする。

前置きが長くなったが、地方移住で大きな課題となるのは仕事探しだ。
いわゆるクリエイター、プログラマー、エンジニアと呼ばれる人たちは、ワーケーション、二地域居住になじみやすいといわれている。
ただ、そうではない人たちの方が圧倒的に多い。
仕事探しの方法はさまざまだが、なるべくばらばらのベクトルから代表的な手法を選んでみた。

1.都会でやっていた仕事と同じ業種で仕事を探す。
地方でスムーズに新生活を始めるなら、このパターンがいちばんいいはずだ。営業、販売、もしくは研究職、技能専門職など、本人のスキルに深く依存する職種なら、現地の求人にぴたりとはまる可能性がある。
条件面であまり選り好みせず、自分がなじめそうな社風か、求めるライフスタイルに合致するかを基準にして、まずは先方の担当者と会ってみることをおすすめする。

2.自治体などの相談窓口を利用する。
今や、外から人を呼び込まない自治体を見つけるのが難しいほど、どこも移住促進に熱心だ。就職や転職の橋渡しとなるサービスの充実にも力を入れている。
具体的な転職活動をどう始めればよいかわからなかったり、不安があったりする場合、もしくは住みたい場所がピンポイントで決まっている場合は、まずは自治体の窓口で総論から入ってみるのがいいだろう。

3.現地で起業する。
元手と事業計画、やり遂げる覚悟があれば、自身も地域も潤う理想的な移住の形だ。自治体の創業支援窓口に通って、事業計画書の書き方、融資の受け方などをレクチャーしてもらおう。地域の事情、近隣とのコミュニケーションの取り方など、現地の人に聞かなくてはわからないことは多い。地域に貢献したいという気持ちが相手に伝われば、懇切丁寧なアドバイスをもらえるはずだ。

4.現地に通い続けて仕事をものにする。
伝統工芸に魅せられて、その世界で弟子入りして技能を磨き、職人として一人前になる、という人もいる。生半可な志では達成できない蜘蛛の糸のようなルートだが、生活を全て捧げる覚悟があれば全く無理な話でもない。
移住先で田んぼと畑を借り、一心不乱に作業を続けることで周りの人の心を動かし、地域の輪に入った人もいる。無関心を装いながらも実はしっかり他人の行動を見ている人は多い。あなたが本気の姿を見せれば、きっと助けの手を差し伸べてくれるだろう。

以上は、ほんの入口を記したまでだ。
他、具体的に見聞きした例を挙げれば、
・住みながら人脈を広げ、勉強を重ねた後起業する。
・資格を生かして転職または開業する。
・移住先で会社員生活のあと、同業で独立する。
・地方に家を借りて、週末だけそこで商売をする。
・家業を地方で展開する。
・親を巻き込んで共同出資&移住し、現地で事業を始める。
・実家を拠点に起業する。
など、意外にバリエーションは多い。

大まかな鉄則はおそらく1~4のとおりであり、あとは自身のパターンに合わせて応用することになる。
舞台が地方であれ都市部であれ、これが本物だと思えたときに道が開けるのではないか。
少々無責任かもしれないが、そういうものだと思っている。

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