老いた親の実家をどうするかというトピックは、今や多くの人が避けて通れないものだ。
その解決策のひとつが家族信託という制度。
今回はそのメリットとデメリットを紹介しよう。

まず家族信託とは何か。
それは「親が自身の財産の管理、運用、処分を、わが子に託し、それによって得られた利益を親に戻すという、家族内の契約システム」だ。
契約の流れは、委託者(親)→受託者(子)→受益者(親)という形になる。

家族信託の対象が不動産であれば、
①土地建物の所有権が親から子に移る。
②子は土地建物を管理、運用、処分する。
③土地建物の運用益や売却益は親のものとなる。

というのが一般的な流れだ。

まずはこの制度の趣旨にして最大のメリットから見ていこう。

1.お金の流れを止めない
もし不動産の名義人(親)が認知症などにかかり、物事の正常な判断ができなくなると、土地建物の処分や管理は不可能になる。意思能力がない人は、売買などの法律行為で主体になれないからだ。
つまり、親の存命中その不動産は塩漬けとなる。
家族信託で子に所有権を移して不動産を有効活用させることで、その経済的価値は維持され、お金の流れもストップさせずに済む。
この制度最大の売りはここにある。

2.遺言と同等以上の効力がある
家族信託には遺言と同じ効力がある。対象不動産に限り、万が一のときには遺産分割協議なしで受託者が処分できる。
また多くの場合、家族信託の内容は公正証書で指定されるため、簡単に内容が書き換えられない。片や遺言は親本位で内容を変更されることが多い。両者を比べれば、家族信託の方が親族間トラブルになりづらい。
さらに、対象不動産について家族信託と遺言書両方で規定されていたとき、作成の後先によらず、家族信託の内容が優先する。
これは家族信託が親と子の間の信託契約に基づき、法的根拠が強いためだ。

3.不正な第三者から財産を防御できる
上記1のとおり、本来認知症を患った人は売買などの法律行為ができない。一方で、悪徳業者が判断力の弱った高齢者を狙い、不当に安い価格で不動産を買い取ったり、法外な高額で不動産を売りつけたりする事案が時折ニュースになる。
こうした詐欺まがいの違法行為から親を守るためにも、家族信託は役立つ。不動産や金銭の処分権限を子に移しておけば、いいように言いくるめられて処分する危険性が激減する。
また、第三者が子と共謀して財産を悪用しようとしても、受益者は親であるため第三者にメリットはない。家族信託は財産の処分権者と受益者を分けることで、詐欺被害のブレーキ機能を果たしている。

4.成年後見制度よりも権限の幅が広い
家族信託と似た制度に成年後見制度がある。この制度もまた財産管理ができなくなった人の権利保護に役立つものだ。一方で、家庭裁判所に申し立てをする、家族以外の第三者に権限を委ねる、さらに第三者へ手数料を支払うといった点で、手続きの煩雑さは否めない。
また、成年後見制度は収益目的の運用や処分まではカバーできない。
その点、家族信託は経済的選択肢が豊富であり、不動産の利活用に幅広く対応できる。また、家族内ですべて収めることができ、第三者の参加に抵抗がある人にはなじみやすい。

5.二次相続指定ができる
遺言では自身の相続人までしか財産の行き先を決められないが、家族信託は相続人の次の相続人まで定めることができる。
「相続人である妻が亡くなったあとは、次男に引き継がせたい」という明確な指定は家族信託ならでは。
つまり、より計画的な財産管理には家族信託が適するといえる。

最後にデメリットも見ておこう。

家族内で全部完結するため、トラブルを想定して先手を打ち、関係する人にしっかり説明する必要がある。
子の数が多ければ説得対象が増えて手間もかかるので、その点覚悟しなくてはならない。

また、相続税の節税にならないことも注意。
親の生前にお金を不動産に変えて運用するなど、財産の組み換えを行えば結果的に節税できる可能性はある。しかし、基本的に家族信託が即節税対策にはなりえない。

最初に戻るが、家族信託最大のメリットはお金の流れをストップさせないこと。儲けようというより、トラブルを未然に防ぐという姿勢にフィットする。
家族内の合意と結束ありきの手段なので、ガラス張りでしっかり話し合い道筋を作っておきたい。

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