
不動産売買の契約時に買主が売主に手付金を支払い、決済残代金を支払うのと引き換えに所有権登記が買主へ移転する。これによって不動産の所有権移転が完成する。
ただ、売買物件に抵当権が付いている場合、つまり売主がローン返済中の場合はその抵当権を抹消しなくては移転登記ができない。
抵当権抹消は売主の義務だが、そのためのお金を準備するのは基本的に買主。抵当権抹消に際して買主はどんなことに注意すればいいのだろう。買主視点でポイントをいくつか解説しよう。
1.値切りすぎに注意
通常、買主が残代金を確保できたことが判明すれば、売主側は抵当権抹消に向けて動き始める。いわゆる期限前弁済だ。売主は借入先の金融機関に連絡し、抹消費用を確認することになる。
一括返済で残債を消すとき、金融機関から見ると手数料収入の源を失うわけであり、期限前弁済に際しては一定の“ペナルティ”が売主に課される。この点を含みおきつつ、抹消費用を準備しなくてはならない。つまり何はさておき売買金額が抵当権抹消金額を上回っていることが必要だ。
言ってみれば、売主が物件を投げ売りしてしまうと抵当権を抹消できない危険性が出てくる。安く買えることは買主にとってメリットだが、くれぐれも値切りすぎないよう注意したい。
2.残代金振込伝票の名義人に注意
買主から売主に残代金を振り込むとき、一般的に伝票の依頼人は買主名義であり、振込先は売主名義の口座となる。
ただ、金融機関によっては売主の預金口座が存在せず、金融機関固有の口座に振り込むケースがある。日常生活に関与せず、投資行動に特化した金融機関でありうる話だ。
このようなとき、伝票の記入方は以下のとおりとなる。
- 依頼人=売主名義
- 振込先口座=金融機関名義+口座番号
- 払出口座=買主名義(または金融機関名義)
金融機関から見れば、あくまで抹消のアクションを起こすのは売主(債務者)。買主(第三者)名義で振り込みを受けても「どちら様?」となるわけだ。
つい見逃しがちなポイントだが、依頼人を誰の名義にするのか、事前に確認しておこう。
3.振込先は抵当権を消せる口座か要確認
売主は抵当権を抹消したいので、借入先の金融機関と協議して決済スケジュールと振込先口座を指定するのが定石。ただ、これは絶対とは言えず、気が抜けない。こんな事例が確認されている。
決済引渡しのため買主の借入先金融機関Aに関係者が集合。ここで本来は抵当権者である金融機関Bに残代金が振り込まれると思われたが、売主の希望により売主名義の別銀行C口座へ入金。
間もなく売主は「トイレに行きたい」と離席し、部屋の外へ。
10分、15分、30分……トイレがこんなに長いものかとそわそわし始めた一同。関係者のひとりがトイレに向かい様子をうかがう。個室の中から「昨日の食べ物が当たって腹痛がひどい」と返事があり、さらに待機。
1時間経過し、さすがにおかしいと再度確認したところ……
なんとトイレにこもった売主は、振り込まれた決済代金を第三者に送金していたのだ。しかも相手は会ったこともない人間。
「送金してくれれば仮想通貨に換え、増やしてバックするよ」
という甘言をあっさり信じ、決済時の数十分を使って“運用”を企てていたのだ。もちろん詐欺。お金は戻ってこなかった。
売買代金の振込先口座が売主名義だからといって安心するのは禁物。
その口座が抵当権者に属するかどうかを必ず確認したい。
それから大事な教訓がもうひとつ。
決済代金の行方が確認できるまで、誰かがひとりきりになる時間をなるべく作らないように。







