今日は、私が実際に受けた土地の売却相談がテーマ。都心から遠く離れた山間の土地。春のヤマザクラ、夏の青々とした田んぼ、秋の紅葉と四季の移ろいを実感できる素敵なロケーション。ところが、そこにはひとつ困った問題が……

Q:十数年訪ねていない父の故郷。まとまった面積で、父名義の宅地と山林が残されています。これらの土地を処分したいのですが、この土地上に一軒、他人名義の建物が立っています。この建物が空き家になっている場合、勝手に壊してしまってよいものでしょうか?
事情を知る唯一の人物だった父が先日他界してしまい、建物が建てられた背景や居住者との関係はよくわかりません。
ちなみに賃貸借契約書はなく、賃料が振り込まれている形跡もありません。

A:それは困りましたね。知らない者どうしの権利関係はデリケートな問題です。
まずは現地を訪ね、今実際に人が住んでいるのかどうかを確認しましょう。

1.所有者が住んでいる場合
住む人がいて、かつお父様と何らかの契約が結ばれている証拠があれば、簡単に追い出すことはできません。
ここでポイントとなるのが、居住者に正当な借地権があるのかという点です。借地権には大きく、賃借権と地上権の2種類があります。
ただ、お話によれば、賃料が支払われておらず、契約書もありません。おそらく賃貸借契約も賃借権も存在しないのでしょう。また、稀なケースですが、地上権についても要確認です。地上権には登記義務があります。土地に地上権が登記されていなければ、建物所有者は無権限でお父様の土地に住んでいることになります。その場合、建物所有者に建物の解体撤去を求めることができます。
仮に、建物所有者が解体に応じないとなれば、たどる道は3つ。

①建物収去土地明渡訴訟を起こす。明渡命令に従って相手方が解体撤去する。
②①の命令に相手方が従わなければ、土地所有者が自腹で解体撤去し、後日建物所有者に費用を請求する。
③空き家対策基本法に基づく行政代執行により、行政の権限で建物を解体撤去してもらう(ただし、建物が今にも崩れそうとか、明らかな環境への悪影響が認められないと執行は難しい)。

2.所有者を特定できるけれど連絡がとれない場合
次に人が住んでいない場合です。
この場合もやはり、勝手に建物を壊すことはできません。誰も住んでいないとはいえ、建物の所有者もしくは相続人がどこかにいる可能性があるからです。
建物の登記事項証明書(謄本)を法務局の出張所で請求してみましょう。続けて、書面に記載されている住所宛に書面等で連絡をとります。
どうしても連絡がとれない場合は、司法書士、弁護士といった人たちに協力を求めましょう。

3.所有者が誰かも所在もわからない場合
所有者の住所がわからず、郵送等でコンタクトできない場合「公示送達」という方法があります。裁判所で主張内容を掲示し、公の目にふれる状態にすることで、書面を送ったのと同じ効果が得られるという制度です。これによる判決から強制執行に進み、建物を解体することが可能となります。
最後に、建物が未登記の場合も含め、建物の所有者が誰なのかわからない場合です。このパターンも行政代執行を求めることができます。まずは自治体への相談をおすすめします。

いずれにせよ、他人の建物を勝手に壊すことはできません。今の状況を見定め、上記に挙げた方法を使って、適切に対応していきましょう。

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