後見人、保佐人という言葉を耳にしたことがあるかもしれない。ただ、こうした人たちの違いを聞かれると説明が難しいもの。今回はそのあたりを詳しくみていこう。

事理分別や権利関係の判断がひとりでは完全にできず、他人の手を借りなくてはならない人たちを制限行為能力者という。
制限行為能力者のうち未成年者を除いた人たちは成年後見制度で権利が守られる。成年後見制度では、事理弁識能力に応じて3つの仕組みを設けている。その仕組みで保護されるのが、被後見人、被保佐人、被補助人という人たちだ。
どの仕組みのグループに入るかは家庭裁判所の審判によって決まる。
それぞれの人たちを支え、権利関係を守るために立つ人々が後見人、保佐人、補助人と呼ばれる。

1.被後見人と後見人
後見人が助ける相手は被後見人。被後見人とは「事理弁識能力を欠く常況」にあると家庭裁判所が認めた人たち。「欠く常況」という言葉のとおり、物事の正常な判断能力が常に全くないため、日常ほぼすべての場面で後見人が代理人となって取引や契約ごとを行う。
被後見人本人が契約書にはんこを押したり、自ら買い物などをしたとしても、問答無用で取り消すことができる。たとえ後見人の同意を得ていたとしても取り消し可能だ。ただし日常のちょっとした買い物などごくわずかの場面は例外とされる。
つまり、代理人である後見人が法律行為を一手に引き受けていると考えていい。

2.被保佐人と保佐人
保佐人が助ける相手は被保佐人。被保佐人とは「事理弁識能力が著しく不十分」と家庭裁判所が認めた人たち。不十分ながらも判断能力があるという立場なので、基本的にひとりで取引や契約ごとの主体となれる。
そのため、保佐人の仕事は被保佐人の行為に同意を与えることだけであり、代理権はない。
以下の行為には保佐人の同意が必要だが、その他のことは被保佐人が単独で行って構わない。

  1. 元本を領収し、又は利用すること。
  2. 借財又は保証をすること。
  3. 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
  4. 訴訟行為をすること。
  5. 贈与、和解又は仲裁合意をすること。
  6. 相続の承認若しくは放棄又は財産の分割をすること。
  7. 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
  8. 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
  9. 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
  10. 全各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。
    (以上、民法第13条より)

上記からわかるとおり、被保佐人が単独で行うと大損害を被りやすい行為についてのみ、保佐人の同意が必要とされている。
所有する不動産を過度に安く売ったり、誰かの保証人になったり、遺贈の放棄を認めたりするのは、被保佐人の権利を損なう行為だ。
ただ、被保佐人にとって不利でない行為であるにもかかわらず保佐人の同意が得られない場合、被保佐人が家庭裁判所に請求すれば、裁判所が同意に代わる許可を与えることができる。

3.被補助人と補助人
補助人が助ける相手は被補助人。被補助人とは「事理弁識能力が不十分」と家庭裁判所が認めた人たち。事理弁識能力について、被保佐人は「著しく」不十分だったが、被補助人はそこまでではない。そのため、被補助人という審判が出るのは、本人自らが家庭裁判所に申し出るか、申出に同意するかの場合に限られる。
ある程度身の回りのことは自力でできるという想定が立つので、補助人の同意が必要な行為は上記1~10のリストのうち一部に限定される。

以上みてきたとおり、後見人には法定代理権があるが、保佐人、補助人には代理権がない。
ただし、被保佐人または被補助人自らが同意し、家庭裁判所が必要と認めた審判をすれば、保佐人、補助人に法定代理権を与えることができる。

なお、後見人、保佐人、補助人になるための特別な資格はない。
多くは弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家、または本人の親、子ども、兄弟姉妹などの親族がその役目を果たしている。
たとえなりたい気持ちがあったとしても、選任するのは家庭裁判所なので、希望どおりなれるとは限らない。本人の財産や権利が効果的に守られるかどうかを総合的に判断して決められる。
家庭裁判所への書類提出が煩雑なこともあってか、最近は家族外の専門家によるケースが全体の約8割に上るようだ。

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