発がん性の疑われる有機フッ素化合物、PFAS(ピーファス)をめぐる報道が活発だ。
全国各地の井戸、水源地の水から国の暫定指針値を超える量が検出され、問題となっている。

まず、PFASとは何かをおさらいしておこう。
PFASとは泡消火剤、塗料などの原料となる化合物の総称。
自然界や人間の体内で残留しやすく、腎臓がん、コレステロール値の上昇を引き起こすとされるため、国際社会では使用規制が急務となっている。

岐阜県各務原市では、3年前から「三井水源池」で国の暫定指針値を超えるPFASが検出されていた。
周辺住民に血液検査を行い、PFASの血中濃度を測ったところ1ミリリットルあたり平均26ナノグラムの値が出た。
これは他地域住民の約3倍の数値。2023年12月のニュースだ。
また、この周辺住民のうち約7割は、米国の学術機関が「健康への影響が出る」とする基準(20ナノグラム/㎖)を超えていた。

2024年2月2日には、東京都立川市にある「大山防災井戸」から、国の暫定指針値(50ナノグラム/ℓ)の9倍超の値、1リットルあたり465ナノグラムが出たと報告された。
立川市では2018年度にも、基地から約1km南東の井戸で1リットルあたり1,340ナノグラムの検出履歴がある。これは都内最高値だ。

同じく2月6日には、広島県東広島市で瀬野川沿いの井戸から、国の指針の80倍超の値、1リットルあたり4,100ナノグラムが出たことが明らかに。同市では他2地点でも指針を超える値が出た。

なお、各務原市では水源地に活性炭を使用し、現在の値は国の指針以内に収まっている。
立川市の大山防災井戸の水は飲用に供されていない。
東広島市では周辺住民の一部15世帯に飲料水を配り、井戸水の使用を控えるよう勧めている。

これら3つのPFAS検出地点には共通点がある。
各務原市は航空自衛隊岐阜基地、立川市は米軍横田基地、東広島市は米軍の弾薬倉庫といった軍事施設に近接する。
英国人ジャーナリストのジョン・ミッチェル氏が入手した米軍内部文書によれば、横田基地では2010~2012年に3件、2020年に3件の少なくとも計6件、泡消火剤漏出事故が起こっていて、総漏出量は約3,240リットルにも上る。
2015年に米軍が作成した環境レビューによれば、これらの物質は最終的に地下75mの地下水層へ行きつき、南南東方向に流れるとされている。
現に使用停止となっている約40か所の井戸は基地東側に偏っており、PFAS研究の第一人者である原田浩二氏(京都大学准教授)は汚染源が横田基地以外に考えられないと語る。
なお、米軍が日本側に漏出事故を報告した履歴はない。

PFASのうち代表的な化学物質のひとつがPFOA(ピーフォア)。
国際がん研究機関(IARC)による発がん性の証拠確実性ランク4段階のうち、最も高い「発がん性がある」に認定されている。
もうひとつのPFOS(ピーフォス)は4段階のうち下から2番めの「可能性がある」に追加された。

PFASに含まれる物質は1万種超存在する。
PFOAやPFOSと似た分子構造をもつ物質は多く見られ、今後さらに有害性が認められる可能性がある。
海外では類似のPFAS物質を包括的に規制しようという動きがあり、各物質の摂取量と発がん性リスクの関係を精査するステージに入っている。
一方、日本の食品安全委員会はPFASの発がん性評価に消極的だ。下記各表の規制基準値からもその姿勢がうかがえる。

飲料水に含まれるPFASの規制基準値

PFOA
(ナノグラム/ℓ)
PFOS
(ナノグラム/ℓ)
法的拘束力
米国44あり
ドイツ20(PFOS含む4種の合算)-あり
日本50(PFOSとの2種の合算)-なし
※ドイツは2028年1月12日から適用される。

健康被害の恐れがあるとされる血液中のPFAS濃度基準値

PFOA
(ナノグラム/㎖)
PFOS
(ナノグラム/㎖)
米国20(PFOS含む7種合算)-
ドイツ1020
日本なしなし


岡山県吉備中央町の円城浄水場では、2022年の水質検査で1リットルあたり1,400ナノグラムという数値が検出されていた。これは暫定指針値の28倍だ。すでに2020年の検査から指針値超えの数値が出ていたが、町がこれらの事実を公表したのは2023年10月。
町で血液検査を受けた27人全員の血中濃度が米国の基準値を超えており、30~40代だった女性5人に至ってはうち3人に流産の経験があったという。
県が水の流れをさかのぼって調べたところ、山中で大量に野積みされた使用済み活性炭に行き着いた。この活性炭からは1リットルあたり最大450万ナノグラムものPFASが検出され、汚染源として疑われている。
吉備中央町では、最速で2024年10月から公費による血液検査を行う。公費での血液検査は全国初だ。

また、国は全国の水道水のPFAS検出状況をまとめるため、2024年9月末までに水質検査の結果などを報告するよう、自治体や水道事業者に要請した。
今後さらに健康被害と環境汚染を防ぐための措置、疫学調査が速やかに進むことを期待したい。

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