
不動産投資を行う人なら、特定の事業用資産の買換え特例(以下、特例)は耳なじみがある言葉のはず。
不動産譲渡益の最大80%にかかる税金の支払いを先送りすることで極力手元に現金を残し、移転コストや新規設備に資金を充当できるというメリットがある。
ただ、近年の制度変更を見逃して痛い目にあわないよう注意が必要だ。
かつては確定申告や決算のときに合わせ、特例の適用を受けるための届出をすればよかった。
ところが2024年4月から制度が変わり、同一年内に買換の売却と購入をするときは、年4回決められたいずれかの日までに届出をしなければ適用外となる。遅れると譲渡益にそのまま税金がかかってしまうのだ。
譲渡日、取得日、届出書の提出期限日の関係は以下のようになる。
●譲渡した年と同じ年に買換資産を取得する場合
| 譲渡の日(先に取得する場合は取得の日) | 提出期限 |
|---|---|
| 1月1日から3月31日まで | 5月末日 |
| 4月1日から6月30日まで | 8月末日 |
| 7月1日から9月30日まで | 11月末日 |
| 10月1日から12月31日まで | 翌年2月末日 |
●譲渡する年の前年に買換資産を取得した場合
買換資産を取得した日の属する事業年度(個人の場合はその年)の確定申告書の提出期限まで。
同一年内に売り買いをする場合、あえて文章にすれば「譲渡資産の譲渡の日もしくは買換資産の取得の日のいずれか早い日を含む各3か月間の末日の翌日から2か月以内」に届出をしなければ、特例の適用を受けられないというわけだ。
もし届出を忘れてしまうとどれほどのインパクトがあるのか、仮の事例で試算してみる。
(例)ある法人が10年超保有していた古い集合住宅(帳簿価格8,000万円)を2億1,000万円で売却し、同一年内に2億円の新しいオフィスビルに買い換えた。
※実効税率は30%と仮定。
| 項目 | 届出を期限内に行った場合 (特例適用) | 届出を失念した場合 (通常課税) | 差額 (特例の効果) |
|---|---|---|---|
| 譲渡価額 | 2億1,000万円 | 2億1,000万円 | |
| 譲渡資産の取得費 (帳簿価額) | 8,000万円 | 8,000万円 | |
| 譲渡費用 | 1,000万円 | 1,000万円 | |
| 実際の譲渡益 | 1億2,000万円 | 1億2,000万円 | |
| 当期の課税対象額 | 約2,857万円 | 1億2,000万円 | ▲約9,143万円 |
| 当期の法人税負担額 | 約858万円 | 3,600万円 | ▲約2,742万円 |
| 新ビルの引き継ぎ帳簿価額 | 約1億857万円 | 2億円 (通常の取得価額) | 差額への課税は将来に繰り延べ |
法人税負担額を見れば一目瞭然。期限超過でおよそ2,740万円ものキャッシュアウトが一瞬にして起こってしまう。
各ケースの計算式は以下のとおり。まず、右側の「通常課税」から。
① 届出を失念した場合(通常課税)
特例が使えないため、譲渡益全額が当期の課税対象(益金)となる。
課税対象額:2億1,000万円(譲渡価額)- [8,000万円(取得費)+ 1,000万円(譲渡費用)] = 1億2,000万円
法人税負担:1億2,000万円 × 30% = 3,600万円
② 届出を期限内に行った場合(特例適用)
10年超保有の土地建物を買い換える場合、一般的に80%の課税繰延(課税割合20%)が認められる。譲渡価額(2億1,000万円)のうち、新しいビルに充当した2億円の部分について80%の課税が先送りされる。
収入金額:(2億1,000万円-2億円)+(2億円×20%)= 5,000万円
必要経費(控除費用):(8,000万円+1,000万円)×(5,000万円/2億1,000万円)≒ 2,143万円
当期の課税対象額: 5,000万円 - 2,143万円 = 約2,857万円
法人税負担: 約2,857万円 × 30% = 約858万円
くれぐれも、
1.届出期限は「決算」や「確定申告」より遥か前にくる
2.法人の場合は売買契約担当と経理担当の連絡を密に行う
3.心配になったらすぐ税理士に相談する
ことをお忘れなく。
最後に課税所得金額の計算式を載せておこう。各金額の関係性がわかるようグラフ化してみたのでご参考に(上の例は下記【2】に該当。計算式の文字にカーソルを合わせるとグラフが光ります)。
【1】譲渡資産の譲渡価額 ≦ 買換資産の取得価額の場合
取得費
譲渡価額
取得価額
【2】譲渡資産の譲渡価額 > 買換資産の取得価額の場合
取得費
譲渡価額
取得価額







